ファッショントーク

マックイーン モードの反逆児はとても見事な映画だったのでどうぞ観に行ってください。

ええと、そもそもはフラれまくった話から始まるわけです。
出鼻をくじかれデコを叩かれ肩をどつかれた上に膝カックンまでかまされる一日があってこそのマックイーン でした。

最初はグリーンブック観るつもりで家を出ました。
行った1軒目の映画館はすでに満席で、「一番前か一番後ろで、パイプ椅子の補助席になります」とお嬢さんが申し訳なさそうに言う。
メンズデーでしたから、場内は男性がやや多めでした。
うーん定価でパイプ椅子かあどうしよっかなあオカマと間違えられることも多いしいっぺん主張してみよっかなあ、などとくだらない逡巡をしたのちあきらめ、即座にスマートフォンで近隣の映画館を探したのです。
さすが有名作、すぐに別の上映情報がヒットしました。
土地勘とグーグルマップがあれば怖いものなしです。
若干の寂しさを胸に、それでも見た目は揚々と自転車を漕ぎ出したものの。

聞いたことのない新しい映画館だったんです。
ですのでね。
意外と、場所がわからなくてですね……
迷いましてね……
時間を逃しましてね……

ようやくたどり着いたら上映開始の5分後、チケットは完売でした。
ただ次週も引き続き上映予定があるらしく、何せこちらはゴールデンウィーク様ですので、じゃあスケジュールだけいただいて退散しましょう、と踵を返し。
目に入ったのが「マックィーン モードの反逆児」のポスターでした。
かっこよかったんですよ、とっても。
あ、いいなあ、とチラッとだけ考えて、でも今日これからって感じじゃあなかったから、お買い物へシフト。

まだその時、私は悲劇の幕開けに気づいていなかった。

お買い物する気はありました。
この連休中に、シマシマ・シャツを手に入れようと思ってたんです。
スタンダードで、ベーシックで、なんの変哲もないやつ。
はみだしっ子のサーニンが着てるようなやつ。

が、残念ながら手に入らなかったのがスタートで、まあ歯車の噛み合わないことといったら。

まず、広げてみたところでは素敵に見えたシマシマですが、袖を通すとなんでか囚人感がものすごい。素顔でセレクトショップに立ち入り試着までした自身の愚行によるとはいえ、あまりにも受け入れがたい。おろおろと第二案としての白Tを試すも、サイズがなく。
取り寄せできるか聞いてもらうのもなんだか億劫で。
ウィンドウショッピングする方だったらお察しいただけるでしょうが、
下見して目星つけてさあ買うぞ、と意気込んだのに手に入らなかった時のがっかりってすごいですよね。

タイミングの合わないことってあります。
気分というか勢いというか雰囲気というか、どうも踏ん切れない感じ。
ま、こんな日もあるよね、パンでも買って帰るか、で食料品売り場に移動したら、
あら美味しそうな食パンがあるじゃない。しかも切ってないやつが残ってるじゃないの。

ところがです。

「すいません、これ8枚切りにしてください」
「すいません、6枚切りしか対応できません」

点になる私の目。

いやなんていうか、えっ?てなってしまって。

奥にスライサーは見えてて、目当ての食パンは常温だったんですよ。
焼きたてで柔らかいからスライサーじゃ無理って場合があるのは知ってたんですが、
食パンって薄くは10枚切りとかサンドイッチ用とか、厚くは4枚切りまで、基本的に一斤くださいっていえばそこから先の厚さは買った人のいいようにできるもんだと思ってたんで、断られるとは予想だにしていなくて。
あれなんですよ、あまりにも予想してなかったから動揺しちゃって。

そのお店が「うちの食パンは6枚切りが一番うまいんだ」と確固たる信念をお持ちなのか、
8枚に切る技術が店員さんになかったのか、
それとも8枚切りの食パンはやや少数派ではあるもののそこそこ一般的であるという私の感覚が間違っていたのか。いや、最後のはないな。ないですよね?
理由を聞くのもゴリ押しして切ってもらうのも面倒で、
なんていうか、関わり合いになりたくなくなってしまって。

いやですねえ、たった食パン一斤で大げさです。

でもねえ、なんかこう、ちょっと、足場が揺らいじゃったんですよね。
遭遇したことのない返答が、あまりにも想定の範囲外で、しかもそれがパン屋さんという非常に日常的な場所で起きたもんだから、自分のささやかな日常とか生活を真っ向から否定されたような気分になってしまって。(つくづく大げさだなあ)

妙に悲しくなってしまって。

狼狽しつつベーグルひとつだけトングで掴んで、手応えが「ふかっ」としてたところにまたしょんぼりし(みっちりどっしりつるんとしたベーグルを愛しています)、小銭できっちり払って袋もレシートも断ってパン屋を出れば、むらむらとやるせなさが湧いてきて。なんか全部うまくいかないなあって、ちょっと泣きたいような気までして。

出鼻をくじかれると、早いうちに復調しないともうそこから先はすべてのテンポがずれてしまう。
思い込みだとは知りつつ、そういう思い込みをしていると思考がそっちに引っ張られるのは、まあ自業自得というか自家中毒というか、しょうがないんですよね。

まずいなあ切り替えなきゃなあこういう時は甘いもんだな、って鯛焼き買おうとしたら、あれです。
和菓子屋さんを中心に令和フィーチャーがすごいんです。
特別やわらかくて粒の大きい小豆を使った3日間限定の「令和鯛焼き」の文字がデカデカと踊っていましてね。
しかもあんこらしき鯛焼きたちが今まさに焼き上がろうとしていて、しかも「令和鯛焼き」の焼き置きは0で、ということは、あれらはこの空っぽの棚に収まるものではないかと。
ここで令和鯛焼きを注文すれば焼き立ての火傷しそうに熱いあんこにかじりつけるのではないかと。
特別にやわらかくて粒の大きい小豆、さてどんなもんだろう。
いや実際砂糖を入れて煮込んだあんことなってしまえば私の雑な舌がいったいどれほど変化をつかめるかなんて怪しいもんですけど、そこは気は心といいますか。(適当です)
せっかくだし。
令和だし。
で、注文したんですが。

結論。

令和鯛焼き、まだ焼けてませんでした。
しかも、焼きあがるまで15分かかるとのこと。

心中お察しください。

可及的速やかにどっしりした甘さを求めていたのに、そんなに待てるわけがない。
15分なんてねえ、永遠と一緒ですよ。長すぎる。

「じゃあ普通のあんこのください」と言った私の顔は、それはもうしおれていたんじゃないかと思う。
いったい私が何をした。少なくともこの連休は何もしてなかったぞ。
ほんと、なんの罰が当たったのかと思うくらい、ことごとく裏目裏目に出てね。

その後も寄り道しようとしたお店は定休日だったり、いつものパン屋さんではいつもの食パンが売り切れで糖分塩分20%オフのヘルシー食パンしか残ってなくて、いっそ笑いたくなるくらい全部全部うまくいかない一日を過ごした私はふてくされて夜9時に寝たのでした。

明けて、翌日。
この日は一転して、さながらピタゴラスイッチのように全てがうまく繋がった日でした。

午後から人と会う約束をしていたので、久しぶりにお洒落をするつもりでした

せっかくのゴールデンウィーク様ですから、普段はしない格好をしたくなりまして、
思い出したのはクローゼットに眠っていた赤いジャケットです。

いただきものです(感謝)。

ボレロみたいに丈が短い、ウエストやや上までの、デニム地の真っ赤なジャケット。
詰襟風で、袖は長く二の腕まではぴったり、手首に向けてラッパ型に広がったスタイル。
本当にかっこいいジャケットで、それだけになかなか外に着て行く機会がなかったものです。
どうぞご覧ください。

ね、かっこいいでしょう。

素敵な洋服って、袖を通すだけで嬉しい気持ちになりますよね。
さて、約束は3時だから終わったあと映画も観られるな、でもグリーンブックは20時台だったよねえどうしよっかなあ、なぞと頭の端で考えつつ、いそいそと組み合わせ考えていたら、タグが目に入りました。
びっくりですよ。
どうぞご覧ください。


なんと!!

ビビって泡食って前日にもらっておいた映画館のスケジュールをガサガサ開いたら、
マックイーンは18時台に上映じゃないですか。
なんという偶然。
タイムリーが過ぎる。
もうこれは、観に行くしかないのではないかと。

しかも久しぶりに袖を通してみたら、このジャケットやっぱりとっても素敵。
しっかりした手触りの生地で、作りは否応なしにぴったりかっちりなのに、決して動きにくいわけじゃない。どちらかといえばハードな印象なんですが、袖の広がり方も背中のラインも実にエレガント。
うっとりします。

前日がことごとくダメだったもんですから、落差もあって余計に嬉しくなりました。

3時からの人との約束も事なく穏やかに終わり、楽しい歓談を二つほど挟み、今度は迷わずにたどり着いた映画館のリクライニングシートに身を落ち着けてね。

観たのですよ。

もうね。本当に素晴らしかった。

お洒落とかコーディネートとか、いまだによくわかっていません。
有名ブランドのことも、名前くらいしか知りません。
だから、マックイーン氏のことも、やっぱり名前しか知らなかったのです。

映画はあらすじを知っても楽しめる方と、全く前情報なしに観たい方とふた通りに分かれると思います。
私は後者で、できるだけ事前情報に触れないままで観たいほうです。
なので今回ばかりは、自分の無知にとても感謝しました。

画面は美しく、事実の組み立てをストーリーへ仕立てる構成も見事で、
何よりもショーの場面、息が止まるくらいの衝撃でした。

新旧の映像が入り混じる映画です。
いってみればショーのシーンは劇中劇というか、ドキュメンタリーとしての大きな箱の中に、幾つもの宝石箱が入っている感じでしょうか。

おかげでここんとこずっとショーの動画ばかり探しては観ています。
でもなー!
やっぱり大画面でのあの衝撃は見事だったよなー!

「彼の服を着ていると、とても女性らしい気持ちになるけれど、同時に『なめんなよ』って気分にもなるの」という言葉が出てきました。

人間は裸で生まれてきて、服を着て「人」になる。
踏まれ、なじられ、潰されることはあって、それは我が身も他が身も同様です。
マックイーン氏のコレクションは、その「先」が見える。
暴力、鬱屈、崩壊、蹂躙、それでも残ってしまった命の感覚。
鮮烈でした。

いい映画だったなあ。是非観にいってください。

ああ、備考ですがいつものパン屋さんのヘルシー食パンはたいへん美味しかったです。

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